2011年6月1日水曜日

「地の底の笑い話」  上野英信


by Eiji.K

◇ 山本作兵衛の挿絵が2011年5月、国内初のユネスコ世界記憶遺産に登録されたのは、この本の影響が大きかったのではないか。

◇ 描かれている対象が、特異な世界であり、経験しないと理解しにくいところがあるせいだと思われるが、作者の論理や表現方法が少しわかりにくい面もあるため、読みずらい処があった。

◇ 昭和30年代まで、北九州地方であのような地獄である悲惨な炭鉱労働が実際に存在していたことが知らされ、取り残された世界を見た感じである。

◇ 今まで、石見銀山、佐渡金山のような囚人が主な労働者で、平均寿命が短いという歴史遺構は見てきたが、それらと同じような状況が現代まで継続されていたことに驚く。

◇ 作者の経歴をみると、京都大学を中退してから炭鉱労働者となり、廃坑後もその地で諸文学活動や記録を継承し、その後のライフワークとしているが、その心情を理解するには、苛烈な炭鉱労働の経験がないと難しいと思われる。

◇ 炭鉱労働者を奴隷的に拘束させる前近代的な仕組みである納屋制度は少し前の「飯場」や「遊郭」、現在の「やくざ組織」に残っている。
この制度から逃れる方法が「ケツワリ」であるが、命がけの逃避行であり、
現在の労働基準法等はそれらの歴史を踏まえて作られてきたことを感じる。

◇ 地底で死者が出た時、そのヤマで働く全ての者が死者に付き添って昇坑するという「死の連帯」意識が書かれているが、その意識は、今回の東日本大震災での遺族捜索の感情と通じる日本人の死者を敬う姿勢として残っていると思う。

◇ 女坑夫が地底で「スラを引く」ためには、言い難い屈辱と痛苦の果てにたどりついた狂気の世界に入らなければならず、狂気に狂う女が美人といわれるという世界とは、なかなか想像できない。

以上

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