2015年6月4日木曜日

「世界から猫が消えたなら」   川村元気

                                                   2015年6月3日

by T,I

あらすじ
余命1週間となった人間は何をするのか?
ネコと暮らす郵便配達員の僕が、余命1週間と告げられ絶望の中、自分に似た容姿の悪魔が持ちかけた取引「この世から何かを消せば、1日命が伸びる」に応じて、悩みながら何かを消していくのだが、最後に消せなくなってしまう。

1. 余命を宣告された人は何をしようとするのか?
2. 自分にとって世の中から消してもいいモノとは何か?

を自分ならどうすると考えながら読むと面白い本である。

月曜日:「何かを得るためには、何かを失わなくてはならない」・・・この世界の原則
    電話を消す 最後の電話を誰にする?

火曜日:消すとは人が気づかなくなること「ドラえもんの石ころぼうし」・・・常に起きている
    携帯電話で失ったものは、想いを伝えられないもどかしい時間

水曜日:映画を消すときに見る最後の映画は「ライムライト」、だが実際は白い画面と空白の時間
    人生の回想
    イタリア映画の「道」・・・ほとんどの大切なことは、失われた後に気付くものよと母

木曜日:しゃべる猫、時計を消す
    人間は不自由さと引き換えに決まりごとがあるという安心感を得た。
    目の前のことの追われれば追われるほど、本当に大切なことをする時間が失われていく

金曜日:猫を消す
    お母さんが亡くなる時の回想
    家族は「ある」ものでなく、「する」ものだった
    お母さんからの手紙「あなたの素敵なところ」を忘れずに生きる
    「人間が猫を飼っているわけじゃなくて、猫が人間のそばにいてくれてるだけなのよ

土曜日:僕を消す。猫が消せなくて、死への準備をする。
    父との記憶、 どう生きるかに意味がある。

日曜日:父への手紙を郵便ポストに入れずに、手渡しに湾の反対側の父の町に行く。

 世の中から消しても良いものを考えてみる契機になる、話だと思う。
便利な道具や仕組みがあることで、大切なことができなくなっている現代人へのメッセージ。
世の中の進歩とともに失われていくもの、なくてもいいモノが増え続けていることへの警鐘と取れる。
 自分が必要としないモノを消したいとの衝動は常にある。「ゲーム、LINE、24時間営業・・・」
新しく生まれてくるものは、なくても生きてけるもの、便利さ、快適さを追求するあまり、失うものの大きさに気が付いていないのが現代かもしれない。変化に適応できない人が増え続けているようにも感じられる。

 子どもの頃の生活になかったもの、「テレビ、洗濯機、冷蔵庫、掃除機、エアコン、電話、車、パソコン、コンビニ、宅急便、インターネット、・・・」なくても我慢できそうなものと難しいものが混在している。

 便利、快適と引き換えに失いそうなもの、失ってみないとわからないもの、「地球温暖化、原発汚染、化学物質の汚染、社会のつながり、生活の安心、安全・・・」

 今こそ、モノやサービスを選択して生活に取り入れる知恵が求められていて、日本人が求めた便利、正確、快適を求めすぎないことが、ヨーロッパの知恵ではないかと感じられる。
価値観や人生哲学が求められる社会になると思うので、子どもたちの教育が重要と感じている。

生活の中から、自分が消していくものは?
1. スマホ(携帯電話)
2. ? (あると思うが、思いつかない)
3. ビデオ
4. 24時間営業

日本社会から消していくモノのは?
1. リニア新幹線
2. 原発
3. モール

by Eiji.K

この本は、お伽話や寓話の世界の話である。したがって、コメントをしにくい内容である。

 主人公の“僕”の余命がわずかという設定は、安易のような気がするし、死への恐れ・恐怖があまり切実に感じられないのも気になる。

◇ 作者の言いたいテーマとして、日常的に当たり前と思っている様々な物事、飼っている猫のことや家族の愛情等は、喪失することで初めて気づくということから、今から再認識し、大切にしていかなくてはいけないということであると思うが、見方を変えればごく当たり前なテーマでもある。

◇ 個々の文章表現には、珠玉の文章が沢山あり、この本の品位と読後感の爽やかさが感じられ、ベストセラーとなっている理由だろうと思う。

 ・「何かを得るためには、何かを失わなくてはね」
 ・僕らは、電話ができることで、すぐつながる便利さを手に入れたが、それと引き換えに相手のことを考えたり想像したりする時間を失っていった。電話が僕らから、想いをためる時間を奪い、蒸発させていったのだ。
 ・恋がそうであるように、終わりがあるからこそ、生きることが輝いて見えるのだろう。
 ・すぐに伝えられないもどかしい時間こそが、相手のことを思っている時間そのものなのだ。
 ・神様に問われていたのは、世界から消える物の価値ではなく、僕の人間としての価値なのだ。
 ・自分の生きている世界を一周まわってみて、あらためて見る世界はたとえ退屈な日常であったとしても、十二分に美しいということに気づいたんです。

◇ この本が映画化され、主人公が佐藤建、元恋人が宮崎あおいという配役は両者の雰囲気が合っており、適役であると思う。