2010年7月7日水曜日

「麗しき花実」  乙川優三郎


by Eiji.K

○ 江戸時代の美術工芸に携わる実在の芸術家の世界、および絵画・蒔絵の職
人の世界を知ることができたが、個人的には両世界とも最も疎い世界なので感情移入がしにくかった。

○ ストーリーの展開が余りなく、読了するのに時間がかかった。どちらかと
いうと読みにくい内容であった。

○ 本の初めにある写真により、蒔絵の世界(櫛・棗等)の一端を知ることが
でき適切な配慮である。

○ 芸術家・職人の制作する作品に対する機微の感情・考え方のとらえ方が精
緻であり、この作者の力量は素晴らしい。

○ 江戸時代の文京区(根岸・不忍池界隈等)の自然状態の描写、風物(料理
屋等)の表現も優れている。

○ 主人公「理野」の女性としての感情表現の細やかさと芸術創作に対する真
摯な態度には圧倒される。

○ 「胡蝶」の生き方のように「理野」も最終的に男にたよることをせず、職
人として全うできるのか、専門職業を持つ女性にとって、自らの力で自立
することは永遠の課題である。

○ 小説の最後に「胡蝶」が「原羊遊斎」から自立し、三味線で生きていくこ
と、「理野」も故郷に帰り蒔絵職人として旅立つことになり救われる感じ。

○ 落款の現実を知ると(本人ではなく、弟子の制作が多いこと。)現代でも同
様なことが行われているのだろうか。

○ “いつの時代も技芸に関わるものは伝統と創造の間でもがきながら自分を 
見つけていくしかない。“

○ “女は老いても若さの燃えさしを抱き続けるようです。”