2008年8月7日木曜日

「豊かさとは何か」

「豊かさとは何か」
著者:暉峻淑子 岩波新書 

20年前に書かれた本なのに、問われている内容に反論できない日本が依然として存在している。  この間日本は何をしていたのだろうか。

この本は、「日本は経済大国であるが、豊かな国ではない。」と喝破したところから論をスタートさせている。以下印象に残った、文を抜粋してみると
² 日本の特異な豊かさ-モノとカネ、経済価値だけを豊かさと考える
² 日本の社会は、経済成長の楽しみ以外に、それに代わる社会の幸せや、豊かさの哲学を持っていない社会なのだ。(ガルブレイス)
² 理解や妥協と同時に闘うことのできる社会でなければオールタナティブ(既存のものと取ってかわる新しいもの)な社会は生まれない。
² ヨーロッパでは福祉サービスの質の高低は、人手の多少にかかっていることを熟知している。
² 豊かな社会を作り出すためには、社会保障、社会資本を充実させることである。
² 豊饒という言葉は、なるべく多くの種が共存していることを意味する。
² 豊かな社会の実現は、モノの方から決めるのではなく、人間の方から決めなければならない。
² 豊かさは、体験の中でしか感じ表現することができないからこそ、人間は豊かな人間的体験を体験できるような余暇-つまり自由時間を必要とする。
² アイヌの人びとの言葉「富を貯めるとは各個人の蔵にモノを貯めることではなく、大地を豊饒に、自然を豊かにし、自然の中に富を貯めることだ」

<感想と覚悟>
・ 豊かさはモノで決められない、人間が決めるものだから、経済が発展すれば必ず、獲得できるものではない。→ 豊かさは、体験の中で感じるものだから、余暇を必要とする。→ワークライフバランスを維持し→どんな生き方、どんな社会が好ましいかを探求する。→人間の復権を考えるなら、共同体的な場を意識的構築していかなければならない

・ 豊饒とは、多くの種が共存している環境で、弱者と共に生きる社会、多様な生物が共存、連帯する地球環境を維持し、生の循環を繰り返す社会をつくらなければいけない。

・ 豊かさへの哲学を持たない、有り余った金が、世界を駆け巡り、土地、株式、商品(石油、農産物)に襲い掛かっている今こそ、それを制御する知恵と勇気が試されている。→戦うことができる社会でないと、新しい社会は生まれないとの覚悟を持つ必要がある。

以上

2008年8月5日火曜日

貧困襲来

「貧困襲来」
[著者]湯浅 誠 山吹書店発行、JRC発売/ 1575円

2008年7月2日
◆「自己責任」は正当か?
著書は、「自己責任論」が蔓延する風潮に警笛を鳴らす。貧困が意図的に隠され、 いま日本社会では、貧困の大量生産が着実に進んでいると説く。みんな死ぬ気で頑張っていないから? いや違う。貧困へと、勤労市民を追いやるメカニズムが、この社会で強力に働いているからだと説く。

◆貧困とは「溜(た)め」を奪われた状態
著者によれば、貧困とは、生きてゆくのに不可欠な「溜(た)め」を奪われた状態に陥ること。教育が保障されていないこと、非正規職への就業者には企業福祉が適用されぬこと、公的な支援が受けられぬこと、家族の支えが得られぬこと、「うまくいかないのは全部自分のせい」と納得させられてしまうこと。

貧困は、自己責任ではなく、社会が解決すべき問題であることを説く。

◆貧困者をさらに痛めつける社会
人を貧困へと追いこんでゆくそんなしくみを見ようともせず、努力が足りないと切り捨てる制度や政策。生活保護の申請を抑えこみ、餓死者を出す「水際作戦」、「福祉に頼らず自立しろ」と、生活の安全保障を外し「決死の綱渡り」を強いる再チャレンジ政策…、みな、貧困者をさらに痛めつけるばかりではないかと問いかける。

貧困者の自立生活支援に長く現場で奔走してきた著者。冷静な物言いは、逆に説得力を増している。それでいてじわーっと著者の怒りが行間ににじみ出る。現場を見続けてきた経験に裏打ちされての文章と思う。根底に、貧困を隠し、放置する権力へ怒りが横たわる。

◆一番読んでほしいのは
読んでほしいのは当事者。ネットカフェをはじめ、誰でも読める場所に常備されたらと著書はいう。学者の論より、切実さが伝わる一冊となっている。

◆北海道の生活保護2億円詐取事件、深谷の暴力団詐取事件、秋葉原の殺傷事件、自己責任の行き着く先、この社会はどこに向かうのか?