2011年5月11日水曜日

「仏果を得ず」 三浦しをん


by Eiji.K

◇ 文楽を見たことは2回ある(広島にいた時に徳島県での人形浄瑠璃と昨年、京都旅行で)が、伝統芸能を“見学”として見ただけであった。
この小説により文楽の世界を垣間見ることができたのは、知らない世界を見せてくれる小説の醍醐味・良さの一つである。

◇ 伝統芸能を継承することは、その道を極めるために日々精進する世界である。その世界は、厳しい未知の領域であり、徒弟制度、上下関係等堅苦しいイメージがあるが、この小説の登場人物は、各々個性があり、特に主人公の健太夫の行動・感性にユーモアがある。
笑える内容の小説は非常に少ないので、この本は楽しく読めた。

◇ 各演目は、演じる人物像を把握するために健太夫が悩み、それを健太夫が試行錯誤しながら克服していく内容となっており、各テーマを現代の視点から考えていく設定・構成は作者の力量によるのだろう。

◇ “300年以上にわたって先人達が蓄積してきた芸をたった60年で後進たちに伝承し、自分自身を磨き切る自信と覚悟があるのか。”という兎一郎のセリフが伝統芸能継承の神髄であると思う。

◇ 重鎮である帥匠たちは、長時間に及ぶ重要な段を毎日語り続け、力量・体力とも若い健太夫よりも優れているとあるが、人間国宝に該当する人とはそういうものだろう。

◇ 歌舞伎の世界は、血による世襲制度がいまだに守られ、継続されているが、文楽の世界では、研修所出身者にも道が開けているようであり、進んでいると言える。

◇ 表題の「仏果」とは、“仏語で仏道修行の結果として得られる、成仏(じょうぶつ)という結果”であるが、それが得られずとあるので、死ぬまで芸を追求するということをいっているのだろうと思う。

以上

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