2011年9月7日水曜日

「ふがいない僕は空を見た」  窪美澄

                  by Eiji.K

◇ 本の帯に山本周五郎賞受賞、本の雑誌が選ぶ2010年度ベストテンの第1位、2011年本屋大賞第2位とあり、期待して読んだが、性描写がリアルすぎてあっけにとられた。
◇ 2回目に読んだ時に文章の表現力が優れており、登場人物の感情の機微や、下町的な市井生活感を捉えることが上手いことがわかり、山本周五郎賞受賞は妥当であると思った。  “私は、息子から父親を奪って、彼からは人としての無邪気さを奪ったのだ。自分の手で家庭を壊してしまった罪悪感はいつもおきびのように私の心にあって、ときおり風にあおられて、その火は強くなった。”(花粉・受粉)
◇ 5編の短編で構成されているが、初めの「ミクマリ」に出てくる高校生の斉藤卓巳に関係する人の続編によるオムニバス形式になっている。  (注)みくまり(水分り)=山から流れ出る水が分かれる所 「世界ヲ覆ウ蜘蛛ノ糸」=卓巳の相手である主婦あんず(江藤里美)の落ちこぼれ・退廃的な過去の経緯 「2035年のオーガズム」=卓巳を好きな松永七菜と神童だった兄とその両親 「セイタカアワダチソウの空」=卓巳の友人福田良太のばあさんとの暮らしやあくつ・田岡さんとの交流 「花粉・受粉」=卓巳の母親でたくましい助産婦
◇ 登場人物は、子どもの頃いじめにあっている慶一郎や不妊変態主婦(里美)、優しすぎる高校生(卓巳)、経済的な困窮者である福田良太とホモである田岡さん、父親が出て行ってしまった助産婦等の少しネガティブで少し社会からはみ出している人たちであるが、たくましく精一杯生きているということが感じられ、周りの状況は厳しいが、かすかな希望もあり、暗い中でも明かりが見えることを表現する作者の力量が感じられる。
◇ 現代の高校生たちの性意識・知識は自分たちの時代と比べ、隔世の感がある。これだけ情報化が進んだ結果によるのだろうと思う。 以上

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