2008年6月22日日曜日

『アースダイバー』   (2008年5月7日)

『アースダイバー』

中沢新一著(講談社2005年5月)
ナビゲーター:小沼英二

[プロローグ]裏庭の遺跡へ
◇ 東京という都市は、時間の系列を無視して、遠い過去と現代が同じ空間に一緒に放置されている。
◇ 洪積層=固い土でできている地層で、縄文時代に海水の浸入が奥まで進んでいた時も陸地のままであった。
沖積層=陸地だったところをえぐって水が浸入してきたところで、砂地の多い地層
◇ 貝塚や土器や石器が発見されている場所=神社やお寺のある場所=無の場所(開発や進歩などという時間の侵食を受けにくい場所)=海に突き出た岬や半島の突端部
=縄文人は強い霊性を感じる場所=墓地、聖地
◇ 現代の東京は、地形の変化の中に霊的な力の働きを敏感に感知していた縄文人の思考から、いまだに直接的な影響を受け続けている。

[第1章 ウォーミングアップ]東京鳥瞰
◇ 東京は、巨大なドーナツのつくりをしている。⇔ ヨーロッパは放射状の構造
◇ 村を環状につくる習俗=汎環太平洋=東京という都市に流れる時間とエネルギーを今なお決定付けている。
◇ 東京の原地形=縄文海進期(新石器時代)=地球の温暖化中=海水水位は氷河期より100m以上高い
※ 現代の気温上昇はCO2の増大だけでなく、地球の温暖化傾向は考えられるのか。
◇ この世にあるものの価値や数が増殖をおこすのは、ミサキ(さきっぽ)であるという思考法

[第2章 湿った土地と乾いた土地]新宿~四谷
◇ 新宿=乾燥した土地と湿地の対立場所
◇ 乾いたもの=高い社会的な身分を持ったもの=高台に住む=伊勢丹・高島屋=弥生文化
湿ったもの=富の秘密を握っているもの=湿り気をおびた暗い土地に住む=歌舞伎町=縄文文化

[第3章 死と森]渋谷~明治神宮
◇ 生きているものたちの世界が死の世界に触れる境界の場所は、「サツ」と呼ばれた洪積層の突端に作られてきた。死霊のつどう空間は神聖な場所であった。
◇ 死霊や神々の支配する神社やお寺や聖地の近い場所で古代の売春(花街)が行われた。
◇ 渋谷=宮益坂・道玄坂の底にひらかれた繁華街は、東京でもっともニヒルでラジカルな場所である。
◇ 明治神宮=日本という国家のための鎮守の森であり、帝国の守護霊
京都の比叡山、江戸の日光山と同じ発想。

[第4章 タナトスの塔]東京タワー
◇ 江戸という都市の中心は、江戸城ではなく、聖なる山、富士山であった。
◇ 東京タワーは、建てられた場所は、東京空襲の傷跡地であり、戦場から持ち帰られた戦車の鉄材で作られている。→死霊の王国
◇ この国の人々は革命を求めない。しかし、出来上がった秩序が破壊され、焼け跡から新しい世界が作られるのを見ているのは、大好きな人たちである。
◇ 東京タワーそのものが、死の中に復活の萌芽をふくんだタナトス(死の衝動)の鉄塔なのである。
◇ 建っている場所は、東京の中でもっとも強い霊的なエネルギーのみなぎる、岬状の台地にある。
◇ 生命は死に触れているからこそ豊かなのである。

[第5章 湯と水]麻布~赤坂
◇ 岬=宗教的な装置=神社・寺=電波塔(縄文的思考の痕跡)
◇ 赤坂=縄文海進期以来の水をたたえた地形=水とエロティズム
※ 仕事場が永田町であったので赤坂見附から溜池の地形は身近でよく分かる。
◇ 都心部の高台と谷間の歴史について、谷間に森ビルがビル建設をすることで、東京は重要な魅力を失い始めている。

[第6章 間奏曲]坂と崖下
◇ 枯山水 石=建物、砂=浮世 苔=路地裏にできた庭園(苔のような存在がないと都市は地上に「悪」を生みだしてしまう。)

[第7章 大学・ファッション・墓地]三田、早稲田、青山
◇ 都内の主要な大学は、大昔の埋葬地に関係した場所に建てられている。
埋葬地は人が立ち入るのを避けてきた広い土地である。
◇ 死霊の支配する世界に住むということは、人間がかぎりない自由を手に入れることに他ならない。→ファッション関係者


[第8章 職人の浮島]銀座~新橋
◇ 銀座は埋立地であり、非農業民的な職人の町がつくられた。
◇ 銀・宝石・広告の三位一体が銀座を特別な街にしている。

[第9章 モダニズムから超モダニズムへ]浅草~上野~秋葉原
◇ 浅草=縄文地理学の影響を免れた盛り場=アメリカ的盛り場=モダニズム
◇ 東京の重要な岬=芝と上野

[第10章 東京低地の神話学]下町
◇ お祭り=無駄な遊び=人の心によろこびと興奮をあたえる。
◇ 生活の隅々まで管理され、効率や利益を重視する経済原理が支配されている時代に
はお祭りは大切
◇ 現実の世界を支配している=「交換の原理」
お祭り=際物(きわもの)=温かい「贈与の原理」=別世界=下町
◇ 沖積層で都心部に残された場所=エロス的なサブカルチャー
同じ沖積層である下町=独特な健康さを備えた別世界=人生は不確実なものであることを知っている=飾りけの無い真実=人の暮らしは自然の怪力の背中に乗っている。
◇ 無意識は別の形をした自然である=全体のバランスを心がける=健全な社会
◇ 渋谷=無意識という人間の自然につながっている通路が閉じた場所=欲望が最新商品を仲立ちにして心の表層を猛烈な勢いで動いている=疲れる場所
浅草=無意識の通路が開かれている

[第11章 森番の天皇]皇居
◇ この世の息苦しさは、資本主義の原理が入り込んでいない隙間がどこにも無いところにある。
◇ 人間の心のよい部分がどんどん破壊されていく。美しかった自然や町並みがお金儲けのために変なものに作り変えられてしまう。
◇ 西洋の生んだグローバリズム(キリスト教・資本主義・科学主義)=経済的合理主義を拒否する部分はまだ生き残っている。→天皇制にあるかもしれない。(単一文化と経済主義を特徴とするグローバリズムにたいする強力な解毒剤)
◇ 東京は「野生の思考」と資本主義的な「現代の思考」がひとつのループ状に結び合って興味深い景観をつくりなしている。



<感想>

○ 東京の縄文時代の地形から現代を見るという発想が斬新で素晴らしい。
○ 東京以外の場所でも、過去の地形が現代を規定している例はたくさんあるのではないか。現在の神社・お寺等の場所はおそらく縄文時代より継続している所はあると思われる。
○ 巻末のスポットリスト(71箇所)は行っていないところが多くあり、今後、全てのところに行ってみたい。
○ 文章表現はやさしいが、奥が深く、著者は思想家・哲学者であることを感じる。

○ 巨大化した資本主義=グローバリゼーションの波に翻弄されている現代
科学主義(自然は克服できた。)=真実はひとつ
人間中心主義=理性中心主義
世界の均質化・同一化=効率・合理化の追求

終焉を迎えつつある。

ローカルな発想、自然と共存する。
人類は5000万種の生物の一つにすぎない。

以上

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