2010年10月6日水曜日

「凍」  沢木耕太郎

by Eiji.K

◇ 本を読んでいながら話の展開により場面によっては、「手に汗握る」という経験をしたが、今までにこのようなことは余りなかったことである。

◇ 本来小説とは、このように一気に読ませるものであると思うが、最近のものではそのような小説は少なくなっている。この小説は、特異な、奇異な題材であり、非日常的な世界を知ることができたことと、ノンフィクションとしての作者の力量が感じられる点で非常に面白かった。

◇ 解説の最後に山野井夫妻がグリーンランドで岸壁に挑戦し、登頂に成功する話が出ているが、このドキュメントをNHKで放映している。その映像を2回見ているので山野井夫妻の二人の表情、話し方がよく分かる。そのため、この小説での二人の会話や行動が目に浮かぶことができ身近な存在として臨場感がもてた。

◇ アルパイン・スタイルによる登山は、死の危険と隣り合わせのやり方であり、そのような極限状態での行動が我々の安全・安穏な日常生活と対比し、
感動を呼ぶし、なにか鼓舞されるものがある。

◇ 当方は、中高年の登山を始めて10年近くになるが、少ない登山経験から言えるのは、冬山は全く別世界の登山であり、経験を積まないと手に負えない領域である。気温がマイナスになると、全ての行動がほとんどできなくなる経験をしている。したがって、マイナス30度近くの岸壁テラスで夜を過ごすことなど考えられない。また、標高差1000m程度の山を登るだけで精一杯なのに登山道ではない岸壁をよじ登ることなどは若い頃からの実績がないと無理である。さらに、空気が三分の一の世界も全く想像ができない。

◇ 多少の危険がある岩場を経験すると、その達成感から、もっと危険な場所を目指してみたいという誘惑に襲われるが、現状では中高年の節度が優先し、危険は回避している。しかし、プロの登山家の宿命としてより困難な挑戦をしたいという感覚はそれなりによくわかる。

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