2008年8月5日火曜日

貧困襲来

「貧困襲来」
[著者]湯浅 誠 山吹書店発行、JRC発売/ 1575円

2008年7月2日
◆「自己責任」は正当か?
著書は、「自己責任論」が蔓延する風潮に警笛を鳴らす。貧困が意図的に隠され、 いま日本社会では、貧困の大量生産が着実に進んでいると説く。みんな死ぬ気で頑張っていないから? いや違う。貧困へと、勤労市民を追いやるメカニズムが、この社会で強力に働いているからだと説く。

◆貧困とは「溜(た)め」を奪われた状態
著者によれば、貧困とは、生きてゆくのに不可欠な「溜(た)め」を奪われた状態に陥ること。教育が保障されていないこと、非正規職への就業者には企業福祉が適用されぬこと、公的な支援が受けられぬこと、家族の支えが得られぬこと、「うまくいかないのは全部自分のせい」と納得させられてしまうこと。

貧困は、自己責任ではなく、社会が解決すべき問題であることを説く。

◆貧困者をさらに痛めつける社会
人を貧困へと追いこんでゆくそんなしくみを見ようともせず、努力が足りないと切り捨てる制度や政策。生活保護の申請を抑えこみ、餓死者を出す「水際作戦」、「福祉に頼らず自立しろ」と、生活の安全保障を外し「決死の綱渡り」を強いる再チャレンジ政策…、みな、貧困者をさらに痛めつけるばかりではないかと問いかける。

貧困者の自立生活支援に長く現場で奔走してきた著者。冷静な物言いは、逆に説得力を増している。それでいてじわーっと著者の怒りが行間ににじみ出る。現場を見続けてきた経験に裏打ちされての文章と思う。根底に、貧困を隠し、放置する権力へ怒りが横たわる。

◆一番読んでほしいのは
読んでほしいのは当事者。ネットカフェをはじめ、誰でも読める場所に常備されたらと著書はいう。学者の論より、切実さが伝わる一冊となっている。

◆北海道の生活保護2億円詐取事件、深谷の暴力団詐取事件、秋葉原の殺傷事件、自己責任の行き着く先、この社会はどこに向かうのか?

0 件のコメント: